風葬の村に潜入したぞ俺は秘境好きだ。有名どころに集まる観光客が嫌いなのだ。といっても「秘境」という言葉自体がすでに客寄せのためのキーワードなんだが。 まあ、そんな事はどーでもいい。行きたいと思えば俺は必ず実現させる。 今回はバリ島の奥地にある風葬の村へ行ってみる事にした。 俺は2週間滞在のうち1週間はド田舎の村でいつものように居候し、 残りはあの坂本龍一教授もお気に入りのウブドゥ村で滞在した。 クジャクが舞い、蓮の花が咲き乱れる素晴らしい村だ。 ウブドゥ村もウラへ入ればプライべートコテージが朝食付きで1泊¥250である。 日本の旅行会社から手配すれば20倍はするだろーな。 断っておくが今回のバリ島2週間はあくまでも「買い付けの仕事」である。 着いてすぐに服のデザインや布を決めて発注し、出来上がるまで「やむを得ず」ブラブラ待つことにした。 さて、ウブドゥ村の友人とバイクに乗って山道を2時間走ると巨大な湖が見えてきた。 岸からボートで1時間半かけて行く、対岸に孤立したその村こそ今回の目的地「風葬の村トゥルニャン」だ。 乗客を増やせばボート代が割安になるので俺はボート乗り場で客引きをした。 ボートの船頭より熱心に「なあ、風葬の村へ行こうぜ」 「お兄ちゃん、ボート代安くするよ~」ナドとどっちがお客なのかわかんない。 結局客4人を乗せてボートは風葬の村トゥルニャンへと旅立った。 南国なのに標高2.000m近いので寒い。時々ボートの水しぶきも浴びる。 やがてボートはトゥルニャンへ着いた。 村の人に案内されるとナルホド死体は木の横で風葬されている。 半分骨になってる人、まだナマに近い人など色々だ。 近くには頭ガイコツが100個ぐらい積み上げられている。 なかなか衝撃的な光景だ。 帰る時になるとどこから出て来たのか年配の人ばかりがわらわらと俺達を囲んだ。 「俺の葬式代を恵んでくれ~」とまるでゾンビのようだ。 さながらホラー映画の主人公になった気分で俺達はボートへ逃げ戻った。 しかしそのゾンビ共は今度は1人用ボート(太い木をくり抜いただけ)を巧みに操り 俺達のボートににじり寄ってくる。 「コラ、離れろ」「キャ~」「船頭、早く船を出せぇ~」などとアビキョーカンだ。 何とかゾンビ軍団から逃げ切ったボートの上で乗客4人は無言だった。 何だったんだ、あの村は?現実? ああいうアトラクション? キラキラ光る湖面を見ながら俺は考えた。 もしかしたら風葬って残忍なんかじゃなく、最も愛のある葬り方じゃないかと。 例えば大好きな家族が死んだら燃やさず安置しておいて、 骨になるまで見届けた方が諦めがつくんじゃないだろうか? 人間が土に還る姿をマザマザと見て、死について考えさせられた。 帰国してすぐ、俺の最愛のおじいちゃんが死んだ。 火葬だった。 |